アシスタントエンジニアが録音中に絶対やってはいけない事。

先日、レコーディングスタジオでの録音で、付いてもらったアシスタントの方がまだ新人でした。業務に大きな支障はありませんでしが、やはり新人という事で、数々のアシスタントがやってはいけない事をやっていたので、その失敗事例と、なぜそれをやってはいけないのかを書き出していこうと思います。

 

プロスタジオの場合は、レコーディングエンジニアとアシスタントエンジニアの2人で共同作業を行う事がほとんどです。レコーディングエンジニアがやる事と、アシスタントエンジニアがやる事は明確に決まっています。お互いがやる事、やらない事を把握し、作業を分担してレコーディング作業を円滑に進めます。

 

アシスタントの彼はスタジオに入って半年だそうです。そのスタジオは基本的にエンジニアがワンマンオペレート(エンジニアが1人で作業を行う。)なので、彼がオペレートに付く回数は少なかったようです。という事もあり、アシスタントがやってはいけない事をまだ把握出来てなかったようです。

 

今の時代、スタジオにアシスタントとして入ってくる子は、多くの場合今まで自分でDTMを使っていたり、専門学校でエンジニアリングを学んでスタジオに入ってくるというケースがほとんどだと思います。しかし、そこでやっている作業というのは、レコーディングエンジニアそのものの仕事であって、アシスタントエンジニアの仕事では無いというのが失敗を招く大きな要因ではないかと勝手に思ってます。

 

では、覚えてる限り、彼の失敗事例を上げていこうと思います。主にProTools関連の事についてです。

 

 

1.ProToolsセッションのフォーマットを何で録るかエンジニアに確認していない。 

僕は48kHz 32Bitで録りたかったのですが、アシスタントに何も聞かれる事なく、96kHz 24Bitのセッションが立ち上がっていました。セッションを作っておく事は何も問題ないのですが、エンジニアによってどのフォーマットで録るかというのは完全に好みや、クライアントの希望等あります。

 

アシスタントの一存で決められる事ではないのです。必ず「どのフォーマットで録るのか」というのは一番初めに聞きましょう。

 

 

2.ProToolsセッションのテンポを勝手に変えた。

とある曲で、譜面の指定がテンポ140とありました。アーティストの意向により、ピアノの音に付点8分のディレイを掛けて欲しいという要望がありました。それで、僕がピアノに付点8分のディレイを掛けて、アーティストはみんなでクリックを出さない状態でリハーサルを行っていました。そこで、アシスタントの彼は、リハーサル中で行っていたテンポを算出して、テンポ141に変えました。

 

実際のテンポはそれくらいだったのかも知れませんが、これは絶対勝手にやってはいけません。ましてやテンポに同期して付点8分のディレイを掛けてるのだから、クリックを出さない状態でテンポを変えてしまうと付点8分のディレイもテンポ141の状態でアーティストに聞こえてしまいます。

 

たかが1くらいの差ですが、アーティストはテンポ感にすごくシビアです。アーティストは基本的に譜面に書かれたテンポ140で演奏をしようとしています。もし、実際にクリックを出して演奏してみて、テンポが速い、遅いというアーティストからの要望があって初めてテンポを変えます。

 

 

3.録音中にコマンド+Z(前に戻る)を使う。

これはよっぽどの事がない限り録音中にコマンド+Z(前に戻る)を使ってはいけません。コマンド+Zを使用すると、最悪、録ったテイクが永遠に無くなります。

 

例えば、1回普通にRecボタンを押して録ります。そのオーディオファイルの名前がAudio_01としましょう。その状態でコマンド+Zを押して前に戻り、テイクを消します。そこから再度Recボタンを押して録ると、1回目に録ったAudio_01は2回目に録ったAudio_01となってファイルが上書きされます。

 

つまり、1回目に録ったテイクはハードディスクにも残らず消えている状態になります。

 

ProToolsになってからアーティストはテイクが基本的に全部残っているものだという共通認識があります。「そのテイクはいらない」と言われた場合でも「やっぱり1つ前のテイクにしたいんだけど」と言われる事もあります。その時には上記のコマンド+Zを使っているとテイクが出せません。

 

なかなかありえないケースですが、一番最悪な状態が操作ミスでテイクを消してしまうという状態です。

 

例えば、1回つるっとテイクを録った。アーティストが「これは素晴らしいテイクだ!!」となったとします。そこから、仮にリージョンを繋ぐ為にフェードを書く等の作業を行ったとします。やっぱりフェードを書きなおしたいので、コマンド+Zを使い戻りますが、間違って2回コマンド+Zを押して、先ほど録ったテイクを録る前まで戻ったとします。

 

そのタイミングでアーティストがやっぱりもう1テイク録りたいとあり、急いでRecボタンを押したが最後、アーティストが「これは素晴らしいテイクだ!!」と言ったテイクが永遠に無くなります。これ、ほんとになかなかありえないケースなんですが、僕はアシスタント新人時代に実際にやってしまい、良かったテイクが永遠になくなり、大変な事態になりました。

 

こういった事もありえるので、絶対にコマンド+Z(前に戻る)を使ってはいけません。

 

 

4.パンチイン後で、リージョンを繋ぐ際にフレーズを変えてしまう。

曲中で、ある場所の小節頭からパンチインして欲しいという場面があり、その部分をパンチインしました。ProToolsでの録音の場合、録った後にリージョンをよき所で繋げてフェードを書くという作業をするのですが、その際に彼は前後の繋がりが悪かった為に、小節頭の前1小節4拍目に入っていたタムのフィルを消してリージョンをキレイに繋げようとしたのです。

 

これはアシスタントの判断だけでやっては絶対にいけません。アーティストはその4拍目のフィルが物凄く気に入ってる可能性もあるし、基本的にそのフィルありきで次の小説頭のフレーズを考えます。(どうでも良いと思ってる場合もありますが。。)

 

エンジニアにしてもそうですが、基本的に録ったフレーズを勝手に変えるという事をしてはいけません。パンチインの指定があった部分の範囲内でうまく繋ぎます。もうどうしても繋がらないという場合だけ、アーティストに相談してみます。勝手な判断でフレーズを変えてはならないのです。

 

 

5.フェーダーを触る。

ピアノを重ねてダビングしたいという場面がありました。そこで1本目を小さくして、2本目を大き目に聞きたいという要望がありました。それぞれの音は卓のフェーダーにパラ出ししていましたが、卓のフェーダーの都合上、ピアノ2本目も1本目と同じ卓のフェーダーに送っていました。

 

となると、ピアノ1本目の音量を下げるには、ProTools上のフェーダーで下げるという事になるのですが、彼はそのままアーティストに言われた通り、すぐさまピアノ1本目をProToolsフェーダーを下げました。

 

これはよっぽどの事がない限り、アシスタント判断でバランスを変えるフェーダーを触ってはいけません。フェーダーはレコーディングエンジニアが触るものです。バランスを取る事がレコーディングエンジニアの仕事で、そこに介入してはレコーディングエンジニアに失礼となります。アシスタントの裁量で触っていいのは、クリックのフェーダーくらいです。

 

もし、そういった場面でレコーディングエンジニアが触る気配がない場合は、アシスタントがエンジニアに「フェーダー下げていいですか?」と一言断ります。細かい事を言い出すと、レコーディングエンジニアの視界にアシスタントが入り過ぎるとか、もっと沢山あったのですが、細かすぎるのでこれくらいにしておきます笑

 

どれもレコーディングを円滑に進める為には重要な事です。

 

DTMで自己流にやっていたり、専門学校でレコーディングエンジニアとしての知識を身に着けると、こういったアシスタントエンジニアとしての基本的概念を初めは理解しがたいものだと思います。けれども、こういった細かい事を1つ1つ注意しながら、作業をする事でアーティストが気持ちよく演奏出来て、良い録音が出来るものだと思います。

 

といい感じの事を言って、ここらで締めます笑

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