音量バランスを取る訓練
アンダース・エリクソン教授とロバート・プール氏の共著、「超一流になるのは才能か努力か?」を読んでるんですが、とても面白いですね。題名の通り、超一流になるのは才能か努力か?ってとこなんですが、しっかり研究されていて、超一流になるにはどういった条件や訓練の必要があるのかを説いてます。という事で、レコーディングエンジニアの観点からどういった訓練法が有効なのかを考えてみようと思います。
レコーディングエンジニアといってもやる事は様々なんですが、重要なスキルである音のバランスを取るという部分で書いてみます。まあ要はミックスする時に重要な部分ですね。
そもそも音源における音のバランスとはいったい何なのかって事なんですが、これ意外と分からない部分かと思ってるんですが、音源における音のバランスとはAとBを比べた時に発生するその差異だと思ってます。
現代の録音技術では、そもそも単体の音量という概念は無いと僕は考えています。というのも、レコーダーに録音された時点で絶対的な音量というのはほぼ無視されているからです。
もうちょっと紐解くと、楽器の中でもかなり音量がデカいドラムのスネアを録音したとします。現実にはスネアの音は変えようのない絶対的な音量で鳴っているんですが、いざレコーダーに録音すると、フェーダーで音量を上げたり下げたり、もしくはスピーカーの音量を上げたり下げたりして音量そのものを可変出来る状態になる訳ですね。
なので、録音物には音単体だけだと、そこには絶対的な音量というのは存在しない事になります。スネアだけを録音してそれ単体だけを鳴らしていたとしても音量自体が大きいか小さいかというのは確定出来ないんです。
では、どうやってスネアの音量を決めるのかと言えば、例えばですが、スネアに対してキックの音量を比べた時にようやくスネアの音量がどれくらい鳴っているのかというのが分かる訳です。何かと比べない限り音量というのが分からないんですね。
という事から、録音物における音の大小、音のバランスというのは、何かと何かを比べてようやく音量が分かるという全てが相対的なものである訳です。まずここを理解していないと音のバランスというのは取れません。
上記の事をまず理解して、バランスを取るという訓練法を1つ紹介しようと思います。
バランス違いのミックスを数パターン落として聞き比べてみる
ある程度ミックスを進めて、良い所でバウンスする時に、1つの楽器のバランスを少し変えたパターンのをいくつか落としてみます。最初は1dB違いくらいからやってみると良いと思います。
例えば、
キック 1dB上げ
スネア 1dB上げ
ハイハット 1dB下げ
ギター 1dB上げ
歌 1dB上げor1dB下げ
みたく、数パターン落としてみます。
そこからの聞き方が訓練的に重要なんですが、例えばキックを1dB上げた事によって、相対的に何かが影響を受けてる訳です。特にキックの場合はミックスの中でも割合が大きいものである事が多いので、影響を受ける楽器類が多いはずです。
キックの音量が上がったという事は、何かの音量が下がっているはずで、その場合どのように聞こえるか、全体的にどのような影響を及ぼすかをキックを1dB上げる前の音源と変化を聞き取るように何回も聞き比べてみます。
それを色んな楽器の場合で聞き比べてみて、1つの楽器の音量が変わる事によって、何に影響するのか、どう聞こえ方が変わるのかを聞き取れるようになるまで訓練します。
慣れてきたら、音量変化の値をどんどん小さくしていって、0.5dBの上げ下げ、0.1dBの上げ下げ等小さくしていき、同じように全体の変化を聞き取れるようにしていきます。0.1dBは流石にかなり難しいですけども。。
一番重要なのは、1つ変化させる事によって他の何が変化するかを聞き取れるようにする事です。
これは周波数をどこまで聞き取れるかの耳の良さは関係なくて、変化を聞き取る脳の神経回路を鍛える訳です。プロのエンジニアはその変化を聞き取る能力が鍛えられているので、全体を聞きながらバランスがうまく調整出来るんですね。
まずここの基礎能力を鍛えないとなかなかバランスというのはうまく取れません。
3年くらい続けると色々細かな変化が聞き取れるようになるので頑張ってみましょう。(長い)