レコーディングとトラブル対処
レコーディングを生業としている私ですが、実際のレコーディング現場で一切何もトラブルが無く終わった事ってほぼありません。何かしら音が来ないとか、ノイズあるとか、もうそんなんしょっちゅうです。という事でそういった事を書いてみようと思います。
今まで様々なレコーディングをしてきましたが、何かしらトラブルはあるんですよね。機材のトラブル、もしくは人間のミスです。とは言え、ヒューマンエラーだけでも撲滅したいもんです。
で、レコーディングエンジニアというのは、そういったトラブルを巧みに回避、発見、解決しながら無事レコーディングを終えるというのが使命です。ぶっちゃけ録り音が良い悪いなんて二の次で、ちゃんと音が全て正常に録れているかって所が最重要な訳です。録り音悪くてもミックスである程度挽回出来ますが、トラックにノイズが入ってる、歪んでる、異音が混じってるなんて事があればミックスどころではありません。
最悪、後日に録り直しなんて事になるんですが、そうなったら死亡です。録音が終わって晴れ晴れとしているミュージシャンやスタッフのテンションガタ落ち、エンジニアは責任取って自腹でスタジオ費やミュージシャン代負担、もう考えるだけで恐ろしい。。。
僕はまだ致命的なミスをして後日録り直し等にはなった事ありませんが、エンジニアの標語でもある「一寸先は闇」というのがありますから(たぶん)、もうじきに死亡するかもしれません。でもやっぱり死にたくはないので、トラブル回避の為に全力を尽くす訳です。
「ぶたがみちをいくよ」という、ぶたが死ぬのが嫌だから巧みに回避する歌がありますが、まさしくエンジニアはぶたさんそのものです。そう、むこうからノイズがくるよー、ぶたは死ぬのが嫌だからー、ノイズを避けていくよー、ぶっちゃっちゃー、ぶっちゃっちゃー。
とまあ、トラブルの恐ろしさをなんとなくお分かり頂けたかと思いますが、実際よくあるトラブルをぱっと思いつく感じで書いてみます。
・音が出ない
これはあるある過ぎます。私はプロのエンジニアですが、マイクから卓を通ってスピーカーから音が出ただけで感動、安堵します。一言で音が出ないと言っても、様々な要因がある訳ですが、むっちゃよくあるのが結線間違い。
マイクからケーブルに行き、壁パラボックスに行き、卓のパッチもしくは直接卓に立ち上がり、卓からProToolsにアサインして、そこから卓のモニターに行き、スピーカーから音が出る、なんて感じですが音出るまで要素多過ぎ。マイク立てれば自動で音出て欲しい。
ベタなのが、壁パラボックスの違う所に挿してた、パッチの繋ぎミス、なんて所です。ケーブルとかコネクタってみんな一緒だからずっと見てると目がバグってくるのです。新人はこれむっちゃ多い。ベテランでもたまにあるくらい。結線を間違いなく確実に出来るというのは実はかなり高いスキルを要するのです。ちなみに、LとRの結線を間違えるなんてもう日常茶飯事です。
次によくあるのが、卓のチャンネルが死んでいるです。卓からProTools等のレコーダーに信号が行く訳ですが、マイクプリが死んでる、バスが死んでる、とかあるあるです。NEVE卓はその作りの構造上よくガリがあるとか音が出ないとかあるんですが、ツマミをグリグリ動かしたり、チャンネルを叩いたりすると音が出る事よくあります。昭和のテレビを叩くと画面映るみたいなアレです。
これが1チャンネルだけの録音とかならまだ要素が少なくて比較的解決しやすいですが、多チャンネルの録音とかなるとまじテンパります。例えばドラム録音とかだと、結線全部終えてからProToolsのメーター見て全チャンネル音が来ているだけで感動します。だいたいどこかのチャンネルから音出てないとかある訳です。
・ガリがある、ノイズがある、歪んでいる
これぶっちゃけよくあるんですが、音が出ないより怖いです。音が出ないならぱっと見で分かるので物理的に解決しようとするんですが、ガリがあったりノイズがあったりする場合、色んな音が混じって出てると気付かない時がよくあります。あからさまにバリバリ音がいってる場合なんてのは気付くんですが、うっすらザワザワみたいな感じで鳴ってるとそのノイズに気付かないんですよね。
なので、全部音が出ているのを確認したら、1トラック毎にソロで聞いてノイズが乗ってないかを確認します。これまた恐ろしいのが、ソロで聞いた時は大丈夫だったけど、後でノイズが出てきたとかです。録音するたんびにソロで聞く訳にもいかないのでこうなるととても気づきにくいです。
ノイズが出たら、そのノイズの種類でたぶんここが原因だろうみたいな予測をして、そこに別のものを使うとかします。例えば、マイクが原因っぽいのでマイクを取りかえる、パッチで接触不良っぽいのでパッチケーブルのコネクタ部分をグリグリ動かす、卓のチャンネルのどこかでノイズが乗っているので別チャンネルに移動させる等です。でもなぜかだいたい1発で解決しないので、時間使ってる暇ない場合はマイクから卓のチャンネルまで全部総とっかえするなんて事もよくあります。
ガリが出ない回路をどなたか開発してください。この現代技術で出来ない訳ないだろ!!ふぁっく!!!
とまあ、他にも色々あるんですが、これらは現場で気付かないとダメなんです。録音を終えて、さあミックスするぞってなった時に気付いてはもう手遅れです。もちろん、ノイズが乗っててもまあ大丈夫なんてトラックもあるので、被害の大きさはそのトラックによります。
そして、私がしたミスについてご紹介。(紹介するの嫌だけど)
・キックのオフマイクがヘッドに当たりビリビリ鳴っててそれに録音時気付かなかった。
キックのヘッド前あたりにヘッドからマイクを2cmくらいの距離で置いていたんですが、キックを踏んでるうちにキックが前にズレてマイクとヘッドが当たり、ビリビリと音が鳴っていました。当然、音チェックの時は当たっていなかったので無事だったのと、キックのオフマイクはバランスを下げていて、演奏中にビリビリと鳴っている事に気付きませんでした。
後日、音を確認してたら、あれ、、これビリビリいってんじゃん、、、と。。しかし、不幸中の幸いだったのが、キックのオフマイクという事です。ビリビリいってない時の音を全部貼り換えました。まあキックの音は一定に鳴ってた方が良いので、むしろ良かったのかも!!!(と思いたい。)
ドラムだと一番トラブルあって被害デカいトラックは、スネアと、シンバルかな。。もう想像しただけで胃が痛くなってきました。書くのつらい。もうやばたん。
まあこれはしれっと音を差し替えて、いい感じにミックスをしたのでまったくばれずに事なきを得ました。(もちろん報告はしましたけども)
・スネアボトムトラックにキックの音がアサインされていた。
スネアボトムになんかやたらキックの音が被り込んでるなーなんて思っていて、色々マイクの位置を変えたり、ドラムの位置を相談して少し変えてもらったりしていたんですが、一向に解決せず。でも対処に時間を結構使っていたので、これ以上やってると進まないと判断して、もう最悪後で差し替えるかと思いRECスタート。
で、途中で気付いたんですが、卓のアサインで、キックチャンネルのアサインがスネアボトムにもダブルでいっていたんです。なので、スネアボトムにスネアボトムの音と、キックの音が混じってる状態。。私はだいぶ冷や汗が出ましたが、ぱっと妙案を思いつきまして。スネアボトムトラックと、キックトラックの位相を反転させたものを一緒に鳴らすと、あら不思議!!スネアボトムトラックから見事にキックだけが無くなったではありませんか!!!むっちゃ見事に消えました。もうまじ最高。という事でこちらは事なきを得ました。
というか、、、もうこんな事を書いてたらなんかますます不安になってきたのでもう書くの止めます。。。
そう。レコーディングエンジニアの標語は「一寸先は闇」です。終わり。