コロナ禍におけるライブ配信の音響あれこれ
随分久しぶりのブログ更新になってしまいました。ブログ書くってなかなか体力がいるのでさぼっていましたが、今年は心機一転なるべく書くようにしたいもんです。昨年はコロナの影響で大変な1年になったもんですね。いつ収束するか全く分からないもんですが、まだまだ続くだろうなあ。。。音楽業界ピンチ。という中でも音楽の火を絶やさないようにと、ライブでも配信が増えてきました。昨年はライブ配信のお仕事も色々させてもらったので、それについての雑感を書いていこうかなと思います。
元々、ライブレコーディングはエムズディスクLIVEレコーディングさんとチームを組ませてもらって数々のライブレコーディングをしてきた訳ですが、今年に入って配信の音響も受け持つみたいな形がどーんと増えてきました。今ライブハウスにお客さんを半分しか入れられないという状況なのでそのままやるとどうやったってぶっちゃけ赤字なので、それをなんとか補填しようとライブ配信も同時にやるという流れですね。
- エムズディスクライブレコーディング
元々ライブ配信は普通にあったもんなんですが、より配信する必要性が高まったというか。今まで配信をやってこなかったアーティストさんも、もうこれ配信やらんとやばくね?みたいな感じになっておりまして。配信やり初めはPAさんの音をそのまま配信に乗せるというのが一般的だったんですが、知見が高まってきてよりクオリティの高い音をって事でPA2Mix(ライブ会場で流す音)とはまた別に配信用にミックスを作りたいという要望から、僕のようなレコーディングエンジニアが駆り出されるようになりました。
そもそもですね、PAさんのやるライブ会場で流す音と、配信で流す音というのは何が違うのかと。普通に考えて別に一緒で良くね?とも思う訳ですね。という事で、何が違うがかみ砕いていきましょう。
ライブハウスと家庭で聞く設備が違う
ライブハウスって基本でかいスピーカーと爆音で音が出てます。低音もドフドフ鳴ってるし。かたやそれぞれのご家庭では小さいスピーカーや、テレビに付いてるスピーカー、というかほぼほぼアイホンにAirPodsというのがほぼ主流なんじゃないでしょうか。もしご家庭にライブハウスで入ってるようなスピーカーあったらそれはそれでビビる。音出した瞬間おまわりさんが確実にやってきます。でもスピーカーや音量の大小がそこまで作る音に影響あるの?とも思うんですが、これが大いにあるのです。
これはPAさんとレコーディングエンジニアの音作りの考え方の差異でもあったりするんですが、PAさんの音作りというのは当たり前ですが、爆音で鳴らすように音を作っているのと、プラス、ライブ音響に付きまとうハウリングというものがあるのです。スピーカーから出た音をマイクが拾ってさらにスピーカーから出るので永遠ループを起こして音量が爆発するみたいな事ですね。(適当な説明)何気にこれが結構敵でして、特に油断すると低音がすぐに回ってしまってブーンと鳴り続ける。
ライブハウスの音響設備ってウーハーとかも積んでて、ドッカンドッカン低音が出るのです。音そのものに低音がそこまで入ってなくてもスピーカーから出る音は増幅されてものすごい勢いで低音が鳴るのです。特に超低音。なので、基本PAさんだと低音を減らしていく作業というのがある程度必要になってくるのです。たまにPAさんのEQ設定とか見させてもらうと、ええ、むちゃむちゃローカット入れてるやん!と。てかEQでまじむっちゃ色々切ってるやんと。まあこれはPAさんによる所もあると思うんですけども。
対して、レコーディングエンジニアの作る音と言えば、そこまでローカットって使わないんですよ。そもそもハウリングを気にするという概念がない。基本、家庭で聞かれるものというのを前提に音を作っております。家庭でのスピーカーで爆発的に低音が出るという事はほぼ無いので、むしろ低音は増幅させたりしてるんですね。なので、一番大きな違いと言えば、この低音の扱い方の考えがもはや真逆です。
となるとですね、PAさんはそういった環境の事があるので全然否定する訳ではないんですが、ライブハウスで鳴らしてる音を家庭で鳴らすとこれがまた低音の無いスカスカな音になってしまうのです。もし家庭にどでかいスピーカーがあるのが一般的という社会であったらPAさんの作る音そのままで良いのです。無理がある仮定だけど。
配信用にマスタリング
という前提を踏まえて、実際レコーディングエンジニアがライブ現場に駆り出されて何をするかと言うと大きく分けて2つです。PA2Mixをもらって配信用にリアルタイムでマスタリングをする。ライブ音響と同じく、全チャンネルパラでもらってPAミックスとは全く別に配信用ミックスを作る。という2パターンです。これを同時に行うという事も全然あります。
PA2Mixをもらって配信用にリアルタイムでマスタリングをするというのはどういう事かと言うと、前述の通り、PAさんが作る音というのは当然ライブハウスで爆音で鳴らす事を前提に作ってる訳なので、それを家庭で聞いても大丈夫な様に調整するのです。まず低音は結構無くなっているのでそれの補正。あと高音も弱い事が多いですね。ライブハウスのスピーカーって高音もむちゃ出てます。実音はそこまで低音や高音を含んでなくても、爆音だとそれが増幅されて聞こえてます。PA2MixからEQでそこを補正します。
次に全体のコンプ感。これも爆音で鳴らしてる分にはそこまで気にする必要もないんですが、家庭で聞く分にはある程度のコンプ感が無いとまとまって聞こえないんですね。曲のダイナミクスもあり過ぎると家庭で聞く分には結構聞きづらかったりします。家に立派な音響設備があり、それなりの音量で聞ける環境があるならまた別に話になってきますが、昨今そんな設備を持っている人も稀でしょう。昔に比べてどんどん小型化していってる訳ですから。むしろ今自宅にスピーカー持ってる人の方が少ない気がしてきた。
最後の一つは音圧です。PAミックスって、何気に音圧むちゃ低いです。ライブハウスだと爆音で鳴ってるからそんな事ないと思うじゃないですか。ところがどっこい音としては音量むちゃ小さいのです。PA2Mixをそのまま加工せずに録音して、普段聞いてる音源と聞き比べてみるとPA2Mixは蚊のような音量なんですね。ライブハウスだとアンプで鬼増幅してるので爆音になってるのです。まあレコーディングエンジニアがやるミックスそのものも音圧上げなければ蚊のような音量なんですが、リスナーさんが聞く頃にはマスタリングやらなんやらしてそれなりの音圧になってます。
配信やり初めみたいな時期の頃はこれが結構問題になっていて、配信の音が小さいと。ボリューム上げても全然小さいみたいな。特に今はスマホで聞くのが一般的で、スマホのアンプってそこまで音量上げられない仕様になっているのでスマホ音量マックスにしても全然小さいと。でもこれたぶんスマホの音量あんまり上げられないのって耳の保護の為なんでしょうね。無限に上げられる仕様にすると耳痛める人続出みたいな。
という事で、ある程度配信に乗せる音圧はそれなりに上げておかないといけないので、PA2Mixにリミッター掛けて音圧を上げてあげるという作業が必要です。
と、ここまでがPA2Mixからのマスタリングをする場合での話ですが、配信用に全チャンネルパラでもらって一から音作りをするとなるとまた話が変わってくるのです。
全チャンネルパラでもらって配信用生ミックス
基本概念は上記と同じなんですが、やっぱりPAさんとでは音の作り方が違うんですよね。ハウリングの概念もさることながら、小さいライブハウスだとお客さんには十分生音も聞こえてたりするので、PAさんはそれも込みで音を作っていたりします。
そういえば昔10代の頃にバンドやっていて私ベースをやっておりましたんですが、自分たちのライブをPAさんに録音しておいてもらって後で反省の為に聞いたりするんですが、車の中で聞いてたらベースむっちゃ小せえと。これもうほぼ鳴ってねえと。要は僕がベースアンプフルマックスで鳴らしていたのでライブハウススピーカーからはほぼ出す必要がなかったと。どんなけベースアンプの音量でかかったのよ。
まあ往々にしてライブハウスで外音を作るとなるとそういう事が起こりうるのです。生音ほとんど聞こえないようなでかい会場だったらまた話は別だけどね。で、そういったライブハウスで実際聞く音とは全く切り離して一からバランスと音を作ります。これは個人的感想ではありますが、大きく音作りが違う所と言えば、ドラムの音作りなのかなーと思ってます。ライブハウスの爆音で聞くとドラムの音ってそこまで加工しなくても音量でかいし迫力のある音に聞こえるんです。人間って音量が大きいと良い音に聞こえるという仕組みも持ってるので。なぜこういう機能を人間が持ってるのかは謎。
ところが、普通に家庭で聞くような音量で聞くとなると、ドラムの音は加工しないと超しょぼい。あれなんでなんだろうね。きっとマイクという仕組みのせいなんだろうけどね。なんか何も加工しないとスカスカの音。ジャンルにもよりますけれども。でもまあ迫力の無い音と言いますか、ぽすぽすしたしょぼい音と言いますか。ライブで聞いてるとさ、うおおお!!迫力あって上がるぜええええ!!!みたいな感じなんだけど。となるとですね、疑似的にうおおおお!!迫力あってまるでライブで聞いてる音みたいだぜえええ!!みたいな音に加工しないといかんのです。
ざっくり言うと、コンプをがっつり掛けてアタックを強調する、低音を増幅させて迫力のある音にする、みたいな。ロック系なんかは特にそうですね。Jazzとか生音っぽい感じが求められるジャンルだとそこまで必要ないんですが、やっぱりライブハウスで爆音で聞くような疑似的な加工をしないとライブ感もクソもあったもんじゃないんですよね。
余談ですが、そういった配信においてライブ会場そのものの音やお客さんの拍手や歓声を拾う用にオーディエンスマイクと言われるものを立てます。単純にそれを上げればライブの臨場感って出るんじゃね?と思いがちだけど、全く以てそんな事は無いという。これはなぜ人間の耳というのはそうなってるのかは謎なんですが、タイトでコントロールされた音というのを皆様好まれるようなのです。ライブハウスで出てる音をそのままマイクで拾うんだからそれをそのまま流せばいいんじゃない?とも思うんですが、これがまたそうでない。
以前にも言っておりますが、現代のレコーディング技術では音量そのものの絶対値は全く記録されず周波数のバランスでしか記録されないので、ライブ会場の音をマイクで記録したとて音量が伴わないのでただスカスカな音になるだけなんですよね。となると、それぞれオンマイクで立ってる音を中心に音を作らないと人類は良い音と認知しないんですね。なので、よくライブ会場の雰囲気を再現したいから、オーディエンスマイクをアゲアゲにしてください的な要望頂く事もあるんですが、何気にそれは真逆をいっておると。その通りにするとスカスカになりますよ?いいんですか?え?どうなんですか?という。
なので、ライブ感を作ろうとなると、オンマイクの音を中心にリバーブやディレイなどでライブ会場感コントロールしながらEQやコンプを使って疑似的にライブハウスで演奏している感を作るのが最良の手だと考えております。
これまた余談になりますけども、今この状況に置いて、配信というのが興行的にとても重要な役割を占めてきてるんですね。以前は普通ライブに来ているお客さんが全てて、配信はオマケ(大袈裟に言うと)みたいな所があったんですが、お客さん半分しか入れられないし、その赤字を補填するのは配信だし、配信チームの重要さも増してるのですね。興行的にって話でね。こういったコロナみたいな特殊な状況ではありますが、もう少しPAさんは私ら配信チームにも融通利かせて優しくして欲しいね!!たまに出るPA様へのディス。もちろんみんながみんなそうじゃないよ笑
まあ僕らライブ録音や配信というものはライブに置いて立場が本来弱いのです。レコーディングだと私ら大事に扱われるんですけども、ライブ現場だとけちょんけちょんな事もあるので、大御所のレコーディングエンジニアでもライブ録音や配信現場に入ると心が折れるという現象が起きる事も無きにしも非ず的な。今このコロナ禍においてレコーディングエンジニアは勢いづいている!!たぶん。ええ?配信の音がしょぼいとPAさんも現場無くなっちまうよ?ええ?どうなんですか??ええ?的な。
まあそれは半分冗談として、興行としてどちらも重要なんだから仲良くやっていこうぜ!俺達仲間だろ??!という。
まあちょっと話が逸れました。んで、実際ライブ配信で良い音を作るとなると結構条件が厳しい場合が多いんです。というのも、ライブ会場だと爆音で音が鳴ってる訳じゃないですか。その中で外音に負けないくらいヘッドフォンを爆音にしてバランスを作らないとダメという状況が結構多いのです。外音が聞こえない楽屋や、中継車を使わしてもらうみたいな現場だといいんですが、それはなかなか難しいんですね。何が難しいって、そこまで音を引っ張ってくるという単純にケーブルの引き回しが大変なのです。
今は技術の進歩でデジタルで引っ張れる事が多いので、細いケーブルを引けばいいんですけど、それでも距離があると本当に大変。てか、一から組まないといけないのでそんな時間ないのがほとんどだし。昔はクソ重いアナログマルチケーブルを物理的に引き回さないとダメだったそうなので、アシスタントの方々はひーひー言っておったみたいです。あれむちゃくちゃ重いのよ。その時代を知りませんが、現代に生まれてよかったね。その頃に生まれてたらきっと心が折れていただろうね。
とまあ、そんなこんなでステージ袖やPAさんの隣等、ばりばり音が聞こえる所に配信ブースを組まねばならん事が大変に多いのです。そうなるとぶっちゃけまじ音分からん。特に低音。ライブ会場って低音どしどし鳴ってるし、ヘッドフォンでそこまで低音鳴ってなくても体にほとばしる熱い低音の鼓動によりなんだか低音がすごくあるように思えるのです。低音って振動の要素むちゃあるからね。となると、上原的に導き出した答えはと言うと、基本普段やってるミックスのセオリーを崩さず予め設定を作っておく。というのが僕なり答えです。
もうほぼヘッドフォン爆音、外音爆音だと判断全然つかないのです。ある程度その中でも判断して音を作る、バランスを取るというのを臨機応変にしないとダメなんですが、聞こえてる音だけを判断して作るととんでもない事になる。普段やってるセオリーを信じるしかないのです。いくつか生配信ミックスをやらせてもらって、音が良いね!なんて評価を幸い頂いておりますが、あれもはやセオリーです。現場でほとんど判断してません。一応少しは判断もしてるけども!!
ちょっと長々となってしまったので、ここら辺で締めていきたい。
しかしいつまでこのコロナ禍というのは続くんでしょうね。もう音楽業界はピンチの瀕死で必死です。こんな事を言うのもあれですが、やっぱり実際のライブと配信では雲泥の差というか、どうやったって配信が実際のライブに勝てる訳が無いとつくづく思いますね。マトリックスみたく脳に直接信号を送って完全ライブ疑似体験みたいな技術が出ない限り無理でしょうね。
でもそんな中少しでも良い音を届けるべく努力はしておるよと。また元通り、むしろそれ以上の熱気が音楽に戻ってきますように。
おわり。