レコーディングエンジニア仕事の流儀

先日、イチロー選手のプロフェッショナル仕事の流儀をちらっと見ました。今更ですけど、イチロー選手かっこいい。まさにプロフェッショナルです。という事で私もプロフェッショナルレコーディングエンジニアの流儀ばりに、エンジニアの感覚とはどういったものなのかを書いてみようと思います。

 

 

レコーディングエンジニアって、なんとなくクリエイティビティーな雰囲気漂ってる気がするんですが(と思いたい)、全然そうではなくて、基本的な概念として同じ事をひたすら繰り返すというものです。そこには創造性もクソもありません。なんとなくの感覚ですが、95%くらいは同じ事をして、残りの5%くらいで創造性、独自性を出すイメージです。

 

この95%同じ事をするというのが極めて重要かつ難しい部分でもあるのです。まあエンジニアってのはクリエイターというより職人の方に分類されるんでないかと。

 

イチロー選手は自分専用のバット、グローブ以外は絶対手を触れないと言います。その感触が少しでも残るのが自分の感覚に影響を与えるからだそうで。なんかイチロー選手の気分になってきた!!今凄いかっこいい事言おうとしてる!!(たぶん)

 

エンジニアもだいたいそんな感じで、基本使う道具やセッティングというのを変えません。そう、基本的にはコロコロ変えてはいけないのです。同じ事、同じ物の中で微妙な変化を見つけて微調整していくみたいな。。

 

例えばレコーディングでのドラム録りの場面。なんかミュージシャンや音楽性によってマイクのセッティングや機材を場面に合わせて変えていくみたいなイメージがありそうなんですが、いや、そんな事はありません。まあ、ある程度人によりけりな所もありますが、僕に至ってはどんなミュージシャン、音楽性でもセッティングはほぼ同じです。

 

ドラムのマイキングで説明していくと、スネアやキックなんかのそれぞれのパーツにマイクを立てていく訳ですけども、基本的にはまず同じマイク位置でセッティングします。ダイナミックマイクに関しては誤差2cmくらい。コンデンサーマイクだとまあ10cmくらいかな。とにかく数センチも狂わさずにマイクを同じ位置に立てるのが理想です。マイクプリの種類は一旦置いといて、マイクプリのゲイン、EQ、コンプも基本同じです。

 

そのデフォルトのセッティングで録れる音というが分かっているというのが重要で、その基本設定があって初めて音を調整するというのが可能な訳です。なんか書いててややこしくなってきた。。。要は基本のラインがあるからこそ音の良し悪しの判断がつくんです。

 

んで、その基本設定した音を聞いてマイク位置などを手直しするんですが、この手直し幅もダイナミックマイクで1cmくらい。コンデンサーマイクで5cmくらい。おおよそその幅でそれぞれ録れる音を調整します。もしくはミュージシャンに丁寧にお願いしてドラムの生音を変えてもらいます。

 

そもそもドラムの音が良くなければ元も子もないんですが、マイクを動かしたりするのはエンジニア的に何を調整してるかと言うと、それぞれの音の硬さと言ってよいかと。録り音の整合性って何を以ってして取れるかってハッキリと分からない部分もあるんですが、なんと言いますか、質感と言いますか、周波数の分布と言いますか、、、。もの凄くざっくり言うと、低域の量感?

 

マイクから収音される音における距離感って低域の量なんですが、録音物にマイクを近づけると低域が多く録れて、反対に離すと低域は少なくなります。マイクの特性上、高域より低域の方が距離における変化の割合が大きいです。

 

なので、この低域をどれくらい入れるというのがポイントでして、これがバラバラだと音の距離があっちゃこっちゃいって整合性が取れないなんて事になる訳です。例えばドラムのタムだと、それぞれのタム毎にヘッドからマイクの距離を変えたら距離の位置関係がおかしくなっちゃうですよね。

 

あかん。説明ばりむずい。とにかく一定の感覚を掴むまで鍛錬なんだ!!!

 

と、強引に話を戻しまして、レコーディングにおいてセッティングは一切変えないというのが基本概念です。

 

ミックスダウンに話が飛びますと、ミックスで一番重要なのはモニターです。よく言われるのはモニターが正確な音出ていないとダメなんて言いますが、それよりも100億倍重要なのが、「慣れ」です。同じ種類のモニター、音量で聞き続けて慣れる事が重要です。

 

例えば私の場合、かれこれモニターの種類、音量は4年くらい変えてません。メインモニターはZS-M5というラジカセなんですが、ずっと同じです。このずっと同じ環境で聞き続けてこそ、音の変化が分かる訳です。例え素晴らしく正確な音が出るモニターだとしても、そのモニターにおける音の変化に自分の基準がない事には変化そのものに気付けないのです。

 

ミックスでもレコーディングと同じで、どんなアーティストや音楽性でも使うプラグインはほとんど同じです。アーティスト毎にがらっと変えたりとかはしません。バランスも実はどのアーティストでもほとんど同じです。冒頭に言ったようにまじで95%くらい同じ事をしてます。残り5%でそれぞれアーティスト毎に差異を付けている感じです。

 

でも同じ事同じ事って言うけど、この同じ事をするってのが難しいのよ?つまり、同じ事をしてもやっぱり同じ様にはならないです。同じって言葉使い過ぎてゲシュタルト崩壊寸前ですが、録り音が毎回違うものを毎回同じ質感にするというのはかなり難しい技術です。

 

これなぜ毎回同じにするかって、同じにするからこそ個性なのです。エンジニアの場合、あの人に頼むとこんな感じの音になるってのが分かっていればこそ仕事が来るのです。まあ当たり前の事なんだけども。。。

 

つまり、独創性だ創造性だなんだかんだ言う前にまずは毎回同じクオリティー、同じ音が作れるようにしなさいってこった。話はそれからだ。ん?何の話だ?

 

レコーディングエンジニアの仕事の流儀、それは同じ事をする事である。

 

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