上原的独断と偏見のミックス論
レコーディングエンジニアによってミックスのやり方ってほんと人によってみたいな所がありまして、みんながみんな言ってる事ほんとにバラバラです。あの人はこう言ってたのにこの人はこう言ってるなんて事はザラでして。という事でそれにあやかって上原の独断と偏見によるミックス論を書いていこうと思います。
よくミックス解説動画とか、解説本とかにミックスはこういう手順でしましょう的な事が書いてますが、上原のミックスのやり方ってそれにほぼ当てはならないかと思います。いやでもよく書いてある事って普通に間違ってると思うんだけどなぁ…なんて事地味に思いつつ。。まあそれは置いておいて。
一般的に言われてるであろう?事と比較を交えつつ上原の手順を解説していきます。とりあえずミックスの部分に関してのみ書いていこうと思うので、レコーディングやエディットの部分はある程度すっとばしていきます。
素材のバランスを先に取っていく
まずこれです。というよりそもそも僕の場合は全てが同時進行していくので、これをやってこうあれをやってこれみたいな手順というものがほとんどありません。音も作りながらバランスも取りながらやっていくんですが、あえて説明するとなるとまず全部のバランスをある程度適当に取って普通に聞けるようにします。ここは30分も掛かりません。
このざっくりバランス取っていくやり方としては、普通にキックから順番にソロで音を出していって順々に積み上げていく形でバランスをざっくり取っていきます。ここはそんなに重要じゃないのでほんとざっくりです。打ち込み素材とかの場合だったら1つ1つ音聞いてどんな音なのか把握していくなんかの役割もあります。レコーディングしてない場合は初めて聞く音だからね。
レコーディングを初めからしている場合はどの音が何の役割をしているのかは大体把握している訳ですから、そこの確認はすっとばしてます。作業としてはほんと音をざっくり並べるだけです。でもこの入ってる音が何の役割をしているかを考えて把握するというのは極めて重要でして、なぜこの場所にこの音が入っているのか?役割は何なのか?というのを推測しなければなりません。ある程度ミックス前にメモ書きしてくれる場合もありますが。
と、音をざっと並べてラフミックス状態になる訳ですね。ドラムやベースはある程度使うプラグインが決まっているので、必要なものはある程度入れておく事がほとんとですね。それ以外の音はプラグインも何も刺さってない状態です。あ、歌はコンプくらい入れておくかも。
ここで初めて何をする必要があるのかを考えます。
これよくあるあるなんですけど、ミックスの手順として初めに音作りの下ごしらえをしましょう的なのあると思うんですが、基本その考えは間違っていると思っております。先に音作りをしてそこからバランスを取っていきましょうみたいな。これ僕はミックス失敗する罠だと思っているので、このやり方は一切しません。だって混ざったら音変わるじゃん。という。
そもそもですね、ミックスというのは全部の音素材ありきで成り立っているので、1つ1つの音そのものの重要度は低いはずです。例えばキックの音がむっちゃ良い音作り出来たとしても、楽曲の中でその音質の意味を成さなければ何の意味もない訳です。当然混ぜればマスキングされて音変わるので、ソロで聞いてむっちゃ良い音でも全部混ぜたらしょぼい音になるなんてよくある事です。当然バランスによって音質も変わってきます。
ちょっと話が飛びますけども、ミックスというのは全ての関係性が相対的であるという事でして、基本絶対値というものは存在しません。まあこれはレコーディングの仕組みそのものがそうなんですけれど。現実世界の音響というのは絶対値で成り立っていて、例えば誰かが「わー!!」と叫んだとしたら、その音量はそのものの音量で聞こえてきます。
しかしながら、それを録音してしまうと、フェーダーであったりボリュームつまみであったりするもので音量そのものを可変出来る訳です。レコーディングの世界は、現実世界で大きい音を小さくしたり、小さい音を大きくしたりする事が可能であったりします。なので、何かと比べてその差異でしか音量感というものを量れないのです。
もし、世の中の音響機器全てがボリュームつまみ無し、フェーダー無し、マイクに入ってきた音量そのままにしか出来ないなんて事があったらそれは絶対値の世界ですね。現代のレコーディング技術的にはそんな事ありませんけど。とまあ言い出したらキリがないのでこの辺りにしておいて、はい次。
全部の音を出しながら音作りをしていく
音作りをする際の基本としては全部の音を出しながらです。全部の音を出しながらだと細部が分からない事もあるので、ソロにしてパラメーターいじる事もありますが、その時間は短いです。またすぐソロを解除して全体の中でどう聞こえるかを確認していきます。
唯一基準にしても良い音としてはボーカルかなと思います。基本的に歌が主役である場合が多いので、その場合は歌の音を作っていきつつ周りの音を歌に合わせて作っていくというやり方です。これね、逆だと失敗しがちなんですけど、オケを先に音作りして最後に歌を乗せるというのは一番やってはいけません。歌が主役なのに、オケに歌を合わせていくという本末転倒なやり方になってしまいます。オケがカチカチに硬質なのに、歌むっちゃ柔らかくて全然質感合わないなんて事はよくある失敗例です。
そもそもですね、絶対EQやコンプなんかで音作りをする必要があるのか?って話なんですよね。全体で混ぜてみて特に何もする必要なければ何もしなくて良いのです。僕の場合、ドラムと歌以外のオケに関してはほとんどプラグイン入ってない事が多いです。音量差がある素材の場合だとバランスが取りにくいので先に音量を整える意味でコンプは入れておいたりするんですが、EQなんかは色々バランスを取りながら必要と感じたら微調整で入れるとかです。
これよく思うんですけど、ミックスにおいて単体の音を何か音作りをしなくてはいけない病みたいなものがある気がします。たぶん。
よくある音の灰汁を探してカットしましょう的な。もうそれ絶対やらなくちゃいけないみたいな。これほんと答えは1つで、やる必要ないならやらなくて良いです。たしかにたまにやらなくちゃいけない時もありますよ。あれ?なんか思った以上にピークのある音で録れちゃった…ここ抑えなきゃ…とか、打ち込み素材の場合それぞれ別の環境で作られているので音の質感合わせなくちゃいけないとか。
1からレコーディングした場合は、そういった質感揃えながら録音しているので大きく何かをEQで変える必要は無いようにしていて、もし音の灰汁というものが大きく出来てしまったならそれは録音失敗しているという考えです。まあギターだけ別のエンジニアやアーティスト本人が録ったとかなら質感が合わなくて大きくEQをする必要も出てくる場合もあったりしますが。
とにかく、全部の音が混じった状態で良い音にしなくてはいけないので、基本的にソロで聞いて良い音にする必要はありません。あくまで全体で聞いた時にどう聞こえるかが重要です。
全部の音を出しながら音作り+バランス取っていく+流れを作っていく
これは上記の項目とかぶっておりますが、音作りとバランスを取るという部分では手順をわざわざ分けたりはしません。音作りをすれば当然音量感も変わってくるので、その都度バランスを取っていきます。
何かに例えるとするなら、常に全体像を見ながら進めていくと言いますか、フォトショップで言うなら全体を1つの画面に表示させながら整えていくと言いますか、木を見て森を見ずと言いますか、まあなんかそんな感じです。初心者には難しいなんて言われるかもですけど、訓練でどうにかなります。(雑)
これまた陥りやすい罠なんですが、単体で音を作っていって最後にバランスを取っていくとするじゃないですか。そうすると、音楽において一番大事な曲の流れというものがおざなりになってしまいがちなんですよね。良い音だけ作って満足みたいな。エンジニアだから当然良い音やバランスにしたいと思うのは当然なんですが、曲においてそこは最重要事項ではないんですよね。
最重要事項は、1曲通してドラマが作れるかどうかです。曲の流れが最高ならバランスや音の良さなんてどうでも良いのです。(そうでもないけど。)
現代の曲はだいたいがイントロがあってAメロがあってBメロあってサビあってみたいな感じですよね。当然その中で盛り上がったり演奏を抑えたり、所々でキメが合ってバシッと決めたりとか色々仕掛けがある訳です。そういった1曲の中に起伏があってこそ1曲の中にドラマが生まれます。
よくあるのがバランスとか音良いけど流れが単調で淡々と聞こえる、1曲通すまでに飽きて停止ボタン押したとかなんとか。1曲通してハラハラドキドキワクワク(死語ではないよね?)してもらい、聞いているファンの方を興奮の渦に巻き込むのが最重要事項なんです!!!!!!!
ちょっと僕が興奮しすぎてしまいましたが、とにかく全体を見ながら(全部の音を出しながら)バランス調整、音作り、曲の流れを同時進行で作っていくのが上原の基本パターンです。音質が良いか悪いかというのは結構エンジニアのエゴだったりするので、そこだけに拘ってしまい大事なものを見失わないように気を付けます。
実際僕の場合どうやってミックスしているかと言うと、曲頭くらいから(イントロ長い場合とかだとイントロ途中からとか)基本流しっぱなしで、気になった所を随時直していくやり方をしています。Aメロだけリピートさせて作っていくとかサビだけリピートさせるとかそういった事はしません。細かく調整したい所はその部分を何回も聞いたりしますが、やっぱり最終的には前後の流れを確認します。
例えばAメロだけリピートさせて最高のAメロを作ったとしても、Bメロに繋がる為のAメロなので、そこの接合部分がうまくまとまってないとそりゃ元も子もないですよね。
音を良くしたり、バランスを調整していくのも、結局最終目標として曲の流れを良くする為です。
この曲の流れを良くするという事を見失うと曲の魅力ってむちゃくちゃ無くなるんですよね。流れ大事です。流れ。まじ流れね。そもそも音楽って時間の芸術なんだから。音を良くする、バランスを整えるというのはあくまで点の部分です。そう、線で繋げていくんだ。まあ音が良い悪いバランスが良い悪いってのは1つの指標になる訳なので、もちろん重要ではあるんですけどもね。
ボリュームオートメーション書くのも2つ意味があって、部分的に音量の小さい所を上げたり、大きい所を下げたりと凸凹がないように整えていくという役割もあるんですが、曲の流れを作るという役割もあったりします。特に現代の音源って再生システム的な問題で細かいダイナミクスがありすぎると単純に曲が聞きづらくなったりするので程度の差はあれど適度にコンプレッションさせてそれなりに平らにしないと成り立たない部分もあるんですが、そうなると部分的なダイナミクスを減らすのと同時に全体の流れのダイナミクスまで減ってしまう事が往々にしてありまして。なので、その曲全体のダイナミクスはある程度ミックスで作る(補完させるとも)必要性も出てくるんですね。
ミュージシャンの最高なる演奏があればエンジニアは音を整えればそれで良いという声が聞こえてきそうですが、それももちろん一理あるんですけども、そもそも現代の録音技術が生演奏を完璧に捉えるという事において追いついておりませぬ。まあ未来は現実世界で鳴っている音がまったく同じ音量音質で録音再生される装置が出てくるかもしれませんけども。
ちなみに僕の場合、ミックスのほとんどをラジカセで小さめの音量でやっているんですが、これはやはり一番流れを確認しやすいからであります。良いモニタースピーカーで大きい音量でやると自分が気持ちよくなって終わってしまい結果良くなりません。大きい音量で聞いたらそら良い音で聞こえるわと。
あとミックスやっていて良し悪しの基準は1曲通して飽きずに聴けるか、というのが自分的なポイントです。ミックスの流れが悪いと僕はすぐ飽きる。飽きない為にミックスしてるといっても過言ではない気がする。
とは言え、冒頭にも書いておりましたが、ほんとエンジニアによってやり方バラバラなので、別にこうじゃなきゃいけないなんて事も全然ありませんが、僕の場合単純に最終目標に対して一番の最短の道を選ぶのが良いミックスに繋がると信じてる訳ですね。ごちゃごちゃやりすぎて選択肢が増えていくやり方だと時間がいくらあっても足りません。わざわざ回りくどい道は選びません。
話がちょこちょこ脱線してしまいましたが、おおよそこんな感じです。流れで書ききりましたが飽きてきたのでここまでにします。
ストップ!ソロだけでの音作り!(標語)
おわり。