Sho Uehara / Once and Again feat. Chihiroのミックス解説 歌編

Sho Uehara / Once and Again feat. Chihiroのミックス解説です。いきなり本題になるのだけど、歌モノのミックスで大事なのは言うまでもなく歌。歌が良くないと全てが良くない。よくミックスは土台のドラム、ベースから作っていくというのを聞くけど、あれは基本的に良くない。オケを散々作りこんで、結局歌が合わないというのが良くあるパターン。

 

*noteからの転載記事です。

https://note.mu/shouehara/n/n43ba3487e017

歌モノのミックスでの基本は、歌の硬さに合わせてオケの硬さを合わしていく。硬さを合わせる作業というのは統一感を出すという意味でとても大事です。実際どうやったかというのをプラグインの設定も見ながら解説していこうかな。インサートした順番に乗せていきます。インサートする順番も音作りにとってとても大事です。

 

まずEQ。こうして見ると、意外にあんまり上げ下げしてないんです。EQを触る前提として、音をフラットにするという事があるんですよね。つまり、録り音がフラットならそんなに触らなくて良い。初めに説明したように、オケから作りこんでしまうと無理なEQをせざるを得なくなってしまうから、歌の音質が不自然になってしまうんですよね。

 

今回の録り音はとても中低域が豊かに録れてました。その辺りがうまく録れてると音作りが楽。低域~中低域というのは前後感に影響する帯域なのだけど、やっぱり歌は一歩前に出した方が良いパターンが多い。もうちょっと細かく説明していくと、128Hz~141Hzあたりをブーストしてるのは、その中低域の多さに比べると少し低域の量感が足りなかったので、ほんの少しブーストしてます。1114Hz~5496Hzあたりのブーストもその原理。

 

こんな感じのEQで歌としておおよそフラットと言えるんじゃないでしょうかね。2kHz~5kHzあたりのブーストは若干の抜け感が欲しかったので少し大げさ気味にブーストしてます。もうちょっとEQで突っ込んだ話をすると、ミックスというのは全てバランスの問題。例えば素の音がフラットな状態で高域をブーストすると、一見抜けが良く聞こえるのだけど、その実他の帯域が少なくなってるという事。何かを足せば、その分何かが減るというのがミックスです。

 

EQの次にコンプをインサート。今回は録りの段階でそれなりにコンプを掛けて録っているから、最大のリダクションで3dBくらい掛かる程度で掛けてます。

 

歌のコンプはほんとケースバイケース。歌のコンプで一番気を付けないとダメなのが、コンプ臭くならないという事。つまり、コンプが掛かっているというのが分かるとそれは失敗。歌が張っているところでいきなり歌が詰まって聞こえるようになったりするのもダメです。そうならないように慎重にコンプ感を調整していきます。

 

とはいえ、一定のコンプ感が無いと、歌の太さや前後感、安定感が出てこないのです。今回は録り音の段階である程度安定感はあったけど、もう少しあった方が良かったので、コンプを掛けてます。Renaissance Compressorは安定感とウォーム感は出るのだけど、コンプ臭くなりがちだから慎重に。

 

アタック21msecというのは歌にしてはかなり遅め。僕の場合はだいたい7msec~20msecくらいでやってます。今回はこれより早くするとコンプ臭くなってしまったので、遅い所ギリギリで設定してます。リリースタイムは50msec~100msecくらいが無難かな。今回の場合は、50msecだと安定感が足りなくて、100msecだと埋もれ過ぎたので、それの中間くらいで設定しました。モードをOptoにしてるのは、リリースのウォーム感的なものが欲しかったからですね。

 

次にもう一段コンプをインサートしてます。リダクションはピークで0.5dB~1dBくらい掛かる程度。まあ気持ちです。ソフトニーのRenaissance Compressorだけだと歌のアタックが少しまったりし過ぎたので、このNuendoコンプでほんの少しアタック感を戻す感じです。あくまでほんの少し。

 

最後にディエッサー。コンプを掛けていくとサシスセソ音が目立ってくるので、それらを削ります。今回は一番掛かって6dBくらいかな。ディエッサーを掛ける基準として、サシスセソ音が他の部分と一定に聞こえるという事。サシスセソ音が出過ぎてもダメだし、逆に凹んでしまってもダメ。ディエッサーは基本的に一番最後にインサートします。

 

次はセンド。リバーブ類は絶対センドで掛けないとダメです。なぜかというと、インサートで掛けると原音との混ぜ具合でリバーブを調整するのだけど、これレベルが変わってくるんですよね。つまり、クライアントの要望に応えられない事になるんです。歌のレベルはそのままで、リバーブ感だけ減らしてくれと言われると大変面倒な事に。まあそんな感じです。

 

僕はあんまりリバーブのパラメーターにこだわらないんですよね。気にするのは、プリディレイ、リバーブタイム、ハイカット、アーリーリフレクションくらいかな。今回このリバーブを使ったのは、音数が少なくて歌をリッチな響きにしたかったからです。音はものすごく良いけど、広がり過ぎる傾向があるから曲を選ぶリバーブ。

 

歌のプリディレイは大体30msec~50msecあたりで調整してます。歌のプリディレイを0にするとかは基本的にしない。アーリーリフレクションは聞いた感じで有りにするか、無しにするか決めて、有りならその値を調整していく感じです。今回は音数が少ないからあった方が良かったですね。

 

ハイカットは今回結構深めにカットしてます。これも音数が少ないからなんだけど、リバーブのハイがシャリシャリすると安っぽく聞こえてしまうので、基本的にはリバーブ成分をハイカットする事が多いです。

 

最後にセンドでディレイ。これはほんとうっすら。LとRで若干ディレイタイムをずらして、ステレオ感が出るようにしてます。僕はディレイが好きだから、許されるなら結構なんでもディレイを掛けちゃいます。歌にディレイ掛けるのは、いくつかの理由があるのだけど、多くの場合はリバーブの補佐として掛ける場合が多いです。

 

リバーブ感を増やし過ぎると歌が埋もれてくるのだけど、それでも残響感が足りない場合があるので、残響感だけをディレイで補佐するという役割。今回はそれに加えて、左右の広がり感を足したという感じです。音数が多い場合はモノラルのディレイの方が効果が高かったりする事が多いのだけど、今回は音数少ないので、歌の占有率を高くする為でもありますね。

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