エンジニアリングとリズム、メロディー、ハーモニーとの関係性
エンジニアリングにおいて、音楽の3要素と言われる、リズム(律動)、メロディー(旋律)、ハーモニー(和声)の観点から見ていこうと思います。現代の音楽はほとんど西洋の概念から成り立っているので、エンジニアリングするにも、この基本的な3要素は非常に重要なんです。
エンジニアリングの基本
まず、レコーディング、ミックス、マスタリングをするにあたって何をしているかと言うと、「音楽を成り立たせる」という事が重要です。
エンジニアからすると、このマイクプリは音が良いとか、このコンプは効きが良いとか、このEQは使いやすいとか色々あるんですが、これってあくまでもリズム、メロディー、ハーモニーを成り立たせる為の一要素にしか過ぎないって事です。
結構エンジニアが陥りやすい罠はここですね。音の良さとか音響機器の性能とかだけにこだわってしまい、肝心の音楽の内容がないがしろになっている的な。音を良くする事にしても、音響機器の性能を上げるのも、音を楽曲として成り立たせる事の一部でしかありません。
今の音楽はほとんど西洋の概念から来ているものですから、結局このリズム、メロディー、ハーモニーをどう構成するかって事を重きにおくって事です。
リズム、メロディー、ハーモニーの捉え方の違い
これって国民性の違いが顕著に表れますね。洋楽と邦楽での違いをざっくり言うと、リズムの捉え方、概念が結構違うように感じます。
昔からよく言われてますが、日本人はリズムが弱いとか、リズム感が無いとかまあそんな感じです。でもこれってあくまでも西洋音楽の観点から見たもので、リズム感が無いって事とはまたちょっと違うんですよね。西洋のリズムって色々見解がありますが、僕的に思うのは、時間を数学的に割って刻んでるもの的なものだと思ってます。
日本人のリズムというのは、別の概念が昔からの文化としてあって、「呼吸」とか、「間」とか、そういうものをリズムって言われてきたかと思います。伝統芸能である「能」なんかはそういったものがとても重要です。なので、西洋のリズム感とは考え方がちょっと違うんですよね。
あと、欧米の方々は、リズムという概念がメロディー、ハーモニーにも組み込まれているような気がしてます。メロディー、ハーモニー自体にあるリズムも一緒くたになって聞いているような感覚なのかもしれません。
日本人はメロディーとハーモニーはセットで考えられるケースが多そうですが、リズムはまたメロディーとハーモニーとは別物であると考えているような気もしてます。まあ、あくまで僕の推測ですけど。
そんなこんなで、西洋の観点から入ってきた洋楽POPSなんかの文化がどーっと入ってきた時に日本人は独特の解釈をして独自の音楽性を築いてきた訳ですね。日本人はよその文化を独自に解釈して楽しむのはとてもうまいですね。クリスマスなんかももうとっくにイエス・キリストを祝ってなんかない訳です。
クリスマスは恋人の為のもんじゃねーんだよーバカヤローなんて言いたくもなりますが、まあ日本人はそういった国民性なんでしょう。
前置きが長くなりましたが、そういったリズムの捉え方の違いがエンジニアリングにも表れてきたりします。
日本の音楽はドライ気味?
ドライってのはリバーブ感が少ないとかざっくりそういう意味です。反対にウェットというのはリバーブ感が多いとかそういう意味ですね。
最近、とある有名エンジニアさんの音源を聞き漁っていたら、「あれ?これ僕の雰囲気と似てない?」なんておこがましくも思ってしまった訳ですが、よくよく考えて聞いてみると、なにもその方だけに限った訳でなく、日本人アーティストの全体的な音の作り方、構成の仕方が似ていたなんて事のような気がしたんです。
エンジニアリングって周波数バランスを整えたりする事も仕事の1つなんですが、その周波数バランスって、リズム、メロディー、ハーモニーの要素と密接に関わってます。例えば、中域の部分はハーモニーの部分とかなり密接です。ハーモニーを賄っている部分は中域部分に多く存在しているのです。
上記でちらっと書きましたが、日本人はリズムよりも、ハーモニーとメロディーを重要視して聞く傾向があります。なので、このハーモニーとメロディーをうまく聞こえるようにする為には中域を前に出す必要があるんですね。中域を前に出すやり方として、ウェットにすると奥に引っ込んでいきますから、ドライ気味にして音像を前に出してやる必要があるんです。
ですが、このように中域を前に出していくと、音のアタックやトランジェントの要素が少なくなります。
反対に洋楽なんかは、リズムを重要視しているところがあるので、中域をそれほど前面に出さず、全体的に空間の隙間を作ってリズムのアタックやトランジェントをうまく立たせていくというやり方をしているような感じですね。
なので、日本人好みの音にする為、もしくは無意識のうちに、日本の音楽は中域の成分が洋楽に比べると多い気がします。ハーモニーやメロディーをうまく聞こえるようにする為には、比較的ドライにした方が作りやすいんですね。
まあ、後はそもそも生活空間にウェットなものが少ないってのもあるかもしれませんが。木造建築とか畳とか、あんまり音が反射しません。欧米なんかは想像するだけでウェットなものが多いような気がしますね。キリスト圏だと教会なんかあったりして、響きマックスの中で歌ってたりとかなんとかかんとか。
70年代~90年代なんかのあたりは、洋楽に追いつこうとして、洋楽を模倣するやり方なんかがよくありましたが、最近はそういった事が少なくなってきたように感じます。西洋音楽の流れを汲んで、日本人独特の音楽的アイデンティティを確立し始めているので、エンジニアリングも日本独自のものになってきているような気がしています。
エンジニアがやってる事
冒頭にも書きましたが、結局エンジニアがやる事はリズム、メロディー、ハーモニーをうまく調整する事なんです。あと、音楽は時間を使う芸術ですから、時間という概念もまた重要になってくるんですが、それはまた機会がある時に。
どうしてもエンジニアやってると、機材の良し悪しに目がいきがちなんですよね。例えば、コンプを使うにしても、音量を揃えるとかアタックを出すとか色々機能がありますが、結局のところ、リズム、メロディー、ハーモニーを調整してるって事に行き着きます。
音の分離を良くするとかも、エンジニアリングで良く聞く単語ですが、それも結局リズム、メロディー、ハーモニーをうまく聞こえるようにする為って事です。分離を良くしたところで、それらがうまく機能してないと分離させる意味が全くもって無い訳です。
機材の性能ばかりに拘っている場合じゃないですね。とは言え、もちろん性能は大事ですけど(笑)
この機材は音が凄く良いんだよーなんて連発するエンジニアになってしまったら終わりだと思ってます。そこじゃないんだよと。いや、それもあるけど。でも音楽の本質ってそこじゃないんだと思ってます。
リズム、メロディー、ハーモニーを構成する為の方法論とか全然書いてないんで、内容があまりにふわふわしてますが、ざっくり基本的な事はこうであると言いたかっただけでした。
基本的な事を見失わず、これからも精進していこうと思います。